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なぜウェブ検索における便益とプライバシーリスクの釣り合いを考えないといけないのか

私は学部の卒業研究で「ウェブ検索における便益とプライバシーリスクを考えさせるための情報提示法」と題して研究を行っていました. その背景や,研究テーマに選んだ理由などを書いていきます.

どんな問題があるか?

ウェブページにおいて,広告は主にページ運営者の収益のために表示されています.

広告の効果を高めるために,「ターゲッティング広告」という手法が取られることがあります. これはユーザが去に訪れたページなどの情報を用いてユーザの大まかな属性を分析し,興味関心を持つ可能性が高い広告を配信する仕組みです. この手法を取ることによって,特定の範囲のカテゴリの広告を,ピンポイントで表示させることができます. 「さっき見たページと似た内容の広告が表示されている」というのは,普段ウェブページを閲覧していてよく見かける現象だと思います.

この「ターゲッティング広告」という仕組みは,サードパーティクッキーなどを用いたトラッキングによって実現されています.

詳しい解説は省きますが,ウェブ検索ユーザそれぞれに,一意の識別子が保存されたクッキーを保存しておきます. ユーザが訪れたページに広告配信システムが埋め込まれていた場合,クッキーに保存された識別子とページのURL(どんなカテゴリのページか?という内容のみの場合もあります,)が広告プロバイダのサーバーに送信されます. このデータを蓄積することで,具体的に個人を特定することなくあるユーザが過去に閲覧したページの情報を手に入れることができます. 広告プロバイダはこうして得られた情報を分析し,特定の識別子を持つユーザ(プロバイダは具体的に誰かはわかりません.)が閲覧する可能性が高い広告を推定し,配信します.

それの何が問題(だと思っている)か?

こうしたトラッキングは普段ユーザからは見えにくいところで行われています. その結果ウェブ検索ユーザの多くは自身のデータが収集されていることに気づいていません. 結果として,自身のプライバシー保護のために行動を取るべきなのか?ということを考える機会がない.という問題が生じています.

私はこれは大きな問題だと考えています. なぜなら,一方的にサービスに不信感を持つユーザが現れる可能性があるからです.

どうなってほしいのか?

常に収集されるデータを意識し,自分が閲覧する内容と比較してほしいと思っているわけではありません. それはあまりにもコストが掛かりすぎますし,あまりにも日常生活に溶け込んでしまったウェブ閲覧という行為にそこまでの制約をかけるべきだとは思っていません. しかし,便利なものを利用するには一定の対価が必要になっているということは忘れないでいてほしいと思っています.

自分が取り組んでいる研究内容について話すと「情報を提供した覚えのない内容の広告が表示されて不気味な経験をした」という反応がよくあります. 私が1番嫌なのは,そこに至った経緯を知ることなしに,一方的にサービスに対して不信感を持つことです. 便利なサービスによる便益を享受しているのなら,そこに支払われている対価も認識するべきだ(してほしい)と思っています. その対価が便益に見合うものであれば何も問題はありませんし,対価が大きすぎると考えるのであれば何かしらの行動を取るべきです.

既存の手法では何が問題なのか?

現在世の中ではサードパーティクッキーを廃止する動きが加速しています. Googleは2022年までに自社の製品からサードパーティクッキーを廃止することを発表しましたし, サードパーティクッキーによるトラッキングをデフォルトでブロックしているウェブブラウザも存在します.

これらはウェブ検索ユーザのプライバシー保護の観点では有効な手段であると考えます. しかし一方で,根本的な解決には至らないとも考えています. なぜなら代替となるトラッキング技術が存在するからです. 現在はサードパーティクッキーに注目が集まっていますが,トラッキングを実現する技術は他にも存在します.

サードパーティクッキーを根絶するアプローチはシンプルかつ強力なアプローチだと思いますし,これを機にサービス提供者・ユーザ双方のトラッキングに対する危機意識が高まるという影響も考えられます. しかしあくまで限定的なものに過ぎず,ウェブ検索ユーザのプライバシーを守るためにはウェブ検索ユーザ自身の能力を向上させることが重要であると考えます.

また,ウェブ検索ユーザのプライバシー意識を高める取り組みは数多く行われています. そのうちの一つに Polisis と呼ばれるウェブアプリケーションがあります. ウェブページのプライバシーポリシーを分析し,収集される可能性のあるデータやその目的など, 多くの項目についてわかりやすく図示するというアプリケーションです. プライバシーリスクに敏感な人であれば,このようなアプリケーションを能動的に利用できるので有効であると考えます. しかし,ウェブ検索ユーザの多くはプライバシーに敏感な人であるとは言えません. したがって,プライバシー保護について考えさせるには不十分です.

どうするのか?

プライバシーリスクに敏感でないユーザにリスクを意識させるには,プライバシーリスクの種類を分類するだけでなく,リスクを実感できるような情報提示手法が必要だと考えます.

本研究では過去に閲覧したウェブページ名を具体的に提示することで,ウェブ検索中のユーザに漏れる可能性のある情報を分かりやすく実感させることを狙っています.

まとめ

私が研究で取り組んでいることや,提案したインタフェースによって,少しでも便益とリスクの釣り合いについて考える機会になってほしいと考えています.